Atlantis

内容は主にゲームや日常生活ですが、偶に思った事を徒然と書いたりする、ゆるくて雑食な日記です。

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ムーンリット・デイ

七夕すぎちゃいましたけども、宇宙系七夕小説投下。
色んな意味でライトすぎて泣けました。

※ムーンリット=moonlit=ドイツ語「月光」の意
※七夕は日本ではなく中国がルーツです







 今日は七月七日、ムーンリット・デイだ。
 一年に一回、月への移住が宣言された日に、お祝いをするというものであって、僕等のイベントの規模の中では一番大きいものであると思う。普段が悲しくなるほど静かな生活をしているだけに、この日だけは盛大に祭りが行われる。会場となった三九番クレーターの中は、大量の建物でひしめき合い、ホバータクシーだの定期便の船だのが、空を飛び交っている。それにしても、ムーンリット・デイという名前は、地球言語が混ざっているらしい。元は月旅行に来ていた地球の人間達が付けたネーミングなのだろう。月に居るのにムーンリット、である。あんた達が見ているであろう太陽に反射した月の光だろうと言いたい。まあいい。
 そんなわけで、僕も勿論来ているのであるが。どちらかというと直接参加してわいわい騒ぐのは、あまり好きじゃない。クレーターの上から会場全体を眺めるのがいいのである。これが僕お勧めの楽しみ方である。と言いたいところであるが、勧めたところでもし皆が真似しだしたら、僕はきっとまた別の楽しみ方を考えるに違いない。何と言えばいいかわからないが、真似されたくないがお勧めはしたい。だがまぁ、同じ事を考える奴は間違いなくいるだろう。見えはしないが、半径5マイルのクレーターの反対側で、同じ事を考えている奴がいそうな気がする。まあいい。
 それよりも、イベントである。急造された大量のテントが立ち並び、色とりどりの電気装飾が好き勝手に光っている。人がひしめき合っている様子は、ここからでも分かる。豆粒レベルではあるが、目の良いらしい月兎人の中でも遠視の僕である。中央では特設ステージが出来ていて、今の時間は何かのコンテストをしているらしい。人が大きく飛んでは、ステージにゆっくり落ちていく。中には、僕くらいの高さまで、つまり、丸々クレーターの凹み分を飛んでいる奴も居た。そいつは女で、僕に気付いたのか気付いていないのか、こっちに向けて手を振っている気がした。知り合いだろうか、と思ったが、あんなところにいるわけがない。まあいい。
 ここに居ると、自分が神とやらになった錯覚に陥る。人を見下し、全ての事象を静観して……。神とは、宇宙を作った奴らしい。人に形がよく似ていて、何でも出来るそうだ。見たこともないが、どこかの本で見た。しかし、宇宙が出来る前は無だったようだが、神は、無の中でさえも生きられるのだろうか。まあいい。
 そんな、無駄な思考を延々と続けて、イベントが終わりそうな時に帰ろうと思っていた。月のイベントは、無駄な事を考えて哲学する僕の、絶好の機会であった。今日も、そうやって終わりそうだった。
しかし、今日はそんな日ではなかった。
クレーターの淵で座っている僕に、誰かが話しかけてきたのだ。
「すいません、宜しいかしら?」
 やたらぎこちない、そしてか細い、月の言語。僕は振り向く前から、そいつが人間だと確信した。
「僕に用?」
 振り向いてみたら、やはりあのごつい宇宙服。分厚い顔の部分の透明な板の中に、僕は人間の女の姿を見た。
「あの、帰れなく、なっちゃったんですけども」
「はあ?」
「ホバータクシーが故障したみたいで」
「へえ」
明らかに面倒臭そうな女だ。
「だけどさ、そのクレーターの中で、宙港までの直接便あるでしょう? 大型のヤツ。なんでホバータクシーなんか使ってるのさ」
「あ、ええと……」
「もういいや」
僕は、クレーターの中の指をさした。
「直接便はあそこ」
「えっと、……見え、ません」
「あれだよ、あれ。ドーム型の」
「……分かりません、ごめんなさい」
 本当に面倒臭い女だ。苛々する。
「あんた達、本当に目が悪いな」
「すいません。月兎人の方々は本当に目がいいのですね」
「まあね」
 僕を月兎人って事が分かっている点は感心する。月蟹人とかとよく間違えられるのに。
「仕方ないな、あそこまで送るよ」
 普段絶対こんな事はしないのだが、あの女が迷って誘拐された揚句に標本にされでもしたらと思うと、何だかいい気がしないので、僕は人間の女を送る事にした。別に褒められた事が嬉しいわけではない。
「いいのですか? ありがとうございます!」
笑顔でそんな事を言われたが、別に嬉しいわけではない。

久々にイベントの会場の中に足を踏み入れた。昔来た時と比べると建物の形が変わってはいるが、基本的に何がどの位置にあるかまでは変わっていないようである。メインストリートは人で賑わっていて、横道に逸れたり、脇にある露店を見たり、イベント会場へ向かって群れで歩いたり、逆に帰ってきたりしている。本当に様々な人間がいる。僕は、あの女が後ろからついてきているか確認しながら、人をかき分けて歩く。ガヤガヤと人の声がうるさい。人が多いのはやはり好きではないが、今回に関しては、まあいい。女は、あのゴテゴテしたスーツで必死にこっちに付いてきている。振り返る度に滑稽な映像だと思う。人間はここではスーツを着ないと死んでしまうらしいから仕方がないのだが。
「あ、あの」
喧騒の中で僕はあの女の声を聞いた。相変わらず細く小さい声である。
「なに?」
「今父から通信がありまして。迎賓館ってどこでしょう?」
「ああ、それなら、イベント会場の真正面にあるよ」
やっぱり面倒臭い女である。
「このまま進めば、迎賓館は割とすぐだな」
「そうなのですか?」
「うん」
そう言っている間に、迎賓館は見えてきた。

 迎賓館は、地球から来た人間を迎える為の施設らしい。月兎人の僕は、まだ入った事が無いし、たぶん今も入れないと思う。結構地球では身分の高い奴しか入れないらしいので、かなり豪華である。そんな中に、僕等は足を踏み入れた。正確には、迎賓館の入り口に、か。
 入口から既に酸素が地球くらいの濃度まで入れられている為、人間は入り口近くのロッカールームであのゴテゴテのスーツを脱いで、館内に入るらしい。大量のロッカーの中の一つに、あの女の名前が付いているがあるというので、男女分かれているロッカールーム前で、僕は待った。しかし、ここは過呼吸になりそうである。少し気持ち悪くなってきたところで、あの女が出てきた。
「すいません、お待たせ致しました」
女は、さっきのゴテゴテなイメージとは全く違った。歳は僕とそう変わらなさそうに見える。黒くて長い髪をしていて、目は濃い茶色、白をベースに蒼い模様が入っている着物、ゾウリと言われる履物。思ったよりもずっと細いし、黒い髪と白い肌のコントラストが映え、儚いイメージが付加された感じである。僕は、ぞくりとした。この感覚が何を意味しているのかは分からない。
「そして、わざわざ送ってくださってありがとうございました。重ね重ねお礼を申し上げます」
「いや、構わないよ」
先程の感覚の答えを導き出せないまま、僕は冷静に何もないふりをして答えた。
「お礼に迎賓館の内部へご一緒に行きたいところでしたが、父が許してくれそうにもありません」
「まぁ、こんなお偉そうな人が集まる場所に、僕が居たってどうしようもないしね」
「そんなことは、ないです」
彼女は、微笑んだ。先程出会った時と変わらない笑顔だったが、今の方がずっと綺麗に見えた。
「今は何も出来ないので、申し訳ない気持ちで一杯ですが……。またいつか、会った時にお礼をさせてください」
「いいよ、別に」
僕はわざとそっけなく答えた。
「また、来年同じところにいらっしゃるなら」
しかし、彼女は食い下がった。
「私は、来年そこへと行きます」
「……わかったよ。期待しないで待ってる」
そう言って、僕は踵を返した。手をひらひらさせてみたが、恥ずかしくなって手を下げた。
彼女も手を振っている気がした。


 あれから、地球の事を少し勉強してみた。無気力で人と距離を常に置いていた自分は、若干社交的になったと思う。若干だが。あの日のムーンリット・デイは、僕にとって、特別な日となりそうだった。
 そう言えば、あの女の着物は、日本という国のものらしい。日本の事について少し調べてみたが、日本の七月七日は、タナバタという日だそうだ。タナバタは、織姫と彦星が一度だけ出会える日だという。僕にとって特別な日は、日本の彼女にとっても特別な日だったのであろうかなんて、考えてしまった。
 来年のムーンリット・デイは、僕はクレーターの上で、ミルキーウェイを見ながら、彼女を待っているのだろうなと、予言をしてみるとしよう。
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